多汗症とは

人間は恒温動物であり、また犬や象のような特殊な放熱器官を持っていないため、ほぼ全身にある発達した汗腺から汗をかきます。
ですが、多汗症とは体温調節の必要がない状況でも大量の発汗が起こる疾患をいいます。
特に手のひらや足の裏、脇の下、頭部や顔面に症状が現れやすく、生活の質に大きな影響を与えることが知られています。

多汗症の発症メカニズムは、自律神経系の交感神経の働きが関与すると考えられています。
本来であれば、暑さや運動時などで活性化される交感神経が、緊張やストレスなどで異常に活性化され、さらに重症になると何の刺激のない安静時でさえ大量に汗が噴き出てしまいますので、単なる汗っかきとは区別されます。

多汗症の分類

原発性多汗症と続発性多汗症(二次性多汗症)

多汗症は大きく2つに分類され、明確な原因疾患がないものを原発性多汗症といいます。

遺伝的要因が強く、思春期頃から症状が現れることが多いです。
一方、甲状腺機能亢進症、低血糖、更年期障害、感染症、褐色細胞腫、悪性リンパ腫などの疾患や薬剤の副作用などが原因となるものは続発性多汗症といい、汗でお悩みの方の中に別の原因がある場合があります。

部位別に分類すると、全身の発汗が過剰に増加する全身性多汗症と頭や顔、脇の下、手のひらや足の裏など体の一部に汗が過剰に増える局所多汗症があります。

部位別の症状の特徴

手掌多汗症(手のひら)では、手のひらが常に湿っている状態で、テストの時にプリントが破れる、勉強や部活などでペンや物が握れなくなる、握手をするのを拒否せざるを得なくなるなどの不都合が起きます。

足底多汗症(足の裏)では靴の中が湿った状態が続き、不快だけでなく水虫などの感染リスクが高まります。

頭部・顔面多汗症では、髪の毛が濡れるほどの発汗や、化粧が崩れやすくなるなどの問題が生じます。
これらは見た目やにおいなどで学校や社会生活などで大きな支障をきたします。

診療の流れ

まずどれくらいの症状でお困りなのかを判断するため、症状の重症度を評価します。
以下のように原発性局所多汗症の重症度はHDSS(Hyperhidrosis Disease Severity Scale)という指標が広く使用されており、セルフチェックで判定できます。

  • スコア1 
    汗は気にならず、日常生活に全く支障はない
  • スコア2 
    汗は我慢できるが、ときどき日常生活に支障がある
  • スコア3 
    汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
  • スコア4 
    汗は我慢できず、常に日常生活に支障がある

このように、多汗症は発汗量や発汗部位よりも日常生活に及ぼす影響の方が重要です。

この重症度と患者さまの年齢や発汗部位、社会的背景を参考にして、個人個人のご希望に沿った治療法を選択します。
治療法の目安として、軽度(HDSS スコア1~2)の場合は、生活指導やセルフケア、外用薬をお勧めします。
中等度(HDSSスコア3)では内服薬やイオントフォレーシスなどをご提案します。
重度(HDSSスコア4)ではボツリヌストキシン注射や手術療法を検討します。

治療法について

外用薬治療

ソフピロニウム臭化物(エクロックゲル)とグリコピロニウムトシル酸塩水和物(ラピフォートワイプ)が原発性腋窩多汗症に対し適応があります。
この薬剤は抗コリン作用により発汗を抑制し、1日1回、両わきに対して塗るか拭くかで効果を発揮します。
皮膚刺激や接触性皮膚炎を起こすことがあるため、使用方法の指導と経過観察が必要です。
いずれも保険適用が可能ですが、ラピフォートワイプは9歳以上、エクロックゲルは12歳以上で使用可能です。

オキシブチニン塩酸塩(アポハイドローション)は、原発性手掌多汗症に対し適応があります。
この薬剤も1日1回寝る前に手のひらに塗ることによって、薬剤の抗コリン作用により手のひらの発汗を抑制します。
ただし塗ってすぐに汗がぴたりと止まるほどの即効性は少なく、効果が実感できるまでには個人差があり、また持続的な効果を期待するには、継続的な使用が必要です。

塩化アルミニウム外用療法

当クリニックでは、20%塩化アルミニウムの外用療法を行っています。
塩化アルミニウム外用薬は、従来から用いられてきた保険適用外の薬品ではありますが、部位によらず軽度から中等度の多汗症に対する治療法です。
こちらは汗腺の出口を物理的に閉塞することで発汗を抑制します。
1日1回、3〜6か月程度にわたり、毎日根気よく続けることが推奨されています。

保険適用外のため、院内製剤として自由診療で処方し、100mlあたり1,320円(税込)で提供しております。
年齢制限なく、手足、脇などに使用できますが、傷がある部位への使用は避けてください。
かゆみや痛みなどの刺激性接触皮膚炎が起こる場合があり、かぶれがみられた場合は使用の中止を検討します。

内服薬治療

多汗症の内服治療の第一選択薬は抗コリン薬です。
プロパンテリン臭化物(プロ・バンサイン)は、交感神経の末端でのアセチルコリンの作用を阻害することで発汗を抑制します。
副作用として口渇、便秘、眠気、尿閉などが現れることがあります。
症状と副作用のバランスを見ながら適切な用量調整を行います。

漢方薬による治療は、体調全体を整えながら発汗の負担を和らげていくゆるやかな方法です。
原発性多汗症の場合は、特定の原因がありませんので、東洋医学が有効な場合があります。
防已黄耆湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、補中益気湯などを処方します。

ボツリヌストキシン注射

ボツリヌストキシン製剤の注射は、発汗を抑える効果があり、重度の原発性腋窩多汗症で所定の条件を満たす場合に保険が適用されます。
こちらは他の方法で効果がなかった場合にご提案します。

表面麻酔をしたうえで、皮内にある汗腺をめがけて注射を行い、汗腺を支配する交感神経末端からのアセチルコリン放出を阻害し発汗を抑えます。
通常3~6か月間程度持続します。
定期的な治療継続により、長期間にわたって症状のコントロールが可能です。

イオントフォレーシス

イオントフォレーシスは、水道水を介して微弱電流を皮膚に通電することで水素イオンが汗腺を閉塞させ、発汗を抑制する物理療法です。
手掌・足底多汗症に対して適応があります。

治療は週2~3回、1回20~30分程度行います。
初期治療では2~3週間の集中治療を行い、その後は週1回程度の維持療法に移行します。

副作用として、軽いビリビリとした感覚や皮膚の乾燥、赤みなどの軽い炎症が起こることがあります。
微弱電流を流すため妊娠中や心臓に病気がある方、体に金属が埋め込まれている方はできません。

星状神経節ブロック

発汗は自律神経が深くかかわっており、文字通り「手に汗を握る」精神的な緊張があった時、過剰に働いているのは交感神経です。
星状神経節ブロックは頚部の交感神経を一時的に遮断する治療法ですので、多汗症の方には汗を減らす効果が望めます。

体の構造上、頭部や顔面、頚部、腋窩、手掌などの上半身の多汗症に効果が望めますが、全身や足底の多汗症には効果は薄いとされています。
注射が苦手な方には、光線療法である近赤外線治療器(スーパーライザー)による治療も可能です。

外科的治療

脇の皮膚のシワに沿って切開し、皮膚を裏返して、はさみでにおいの元となるアポクリン汗腺を切除していく剪除法(皮弁法)が一般的です。
これは主にアポクリン腺が原因である腋臭症(わきが)に対して本来行われる治療です。
発汗の量は、手術の際に汗の原因であるエクリン腺を適切に除去することで調節し、皮膚の負担を最小限にします。

他に当クリニックでは行っておりませんが、手掌多汗症に対する胸腔鏡下交感神経切断術(ETS)や、腋窩多汗症に対してはマイクロ波による汗腺破壊術などが選択されることがあります。
これらの治療にも効果が期待されますが、術後の創部管理や感染リスクなどを十分考慮する必要があります。

ストレス管理

心理的な要因が大きく関与している場合には、自律神経のバランスを整えるためにリラクゼーション技法の提案や、カウンセリング・認知行動療法なども行います。
多汗症に対する過度の心配や恐怖を軽減し、症状への適応的な対処法を学ぶことで、症状の悪化を防ぎます。
必要に応じて、精神科や心療内科との連携を行っております。

日常生活での対策

適切な衣服や靴の着用、外出時は日傘や帽子、冷却グッズなどを活用します。

食事は香辛料などの刺激物やカフェイン、アルコールなど発汗を促進する食品を避け、体を冷やす効果のある食材(きゅうり、トマト、なす、スイカ、メロンなどの夏野菜・果物など)の積極的な摂取をします。

発汗に応じた水分補給は重要ですが、一度に大量摂取すると発汗を促進しやすくなりますので、少量ずつ頻回に摂取するようにします。
喫煙や過度な飲酒は自律神経が乱れやすくなりますので控えるようにします。

まとめ

多汗症は、たとえ軽症であっても本人の社会生活に影響がある場合などは積極的な治療が検討されます。
特に学生や若い社会人の方では、多汗症症状により学業や職業選択に制限が生じ社会的損失につながりますので、早期治療により将来の可能性を広げることができます。

多汗症は適切な治療により、完治は困難な場合もありますが、治療のゴールである日常生活に支障のないレベルまで症状のコントロールを目指します。
ただし大半の治療法は、効果発現まで時間を要し、継続的な治療により効果を維持することができますが、治療を中断すると症状が再発する可能性が高くなりやすいので、継続的な診療が必要になります。
2009年に国内で実施された調査では、原発性手掌多汗症の有病率は約5%と報告されています。
また、この調査における原発性局所多汗症全体の医療機関への受診率は6.2%と、1割以下でした。※

当クリニックは、どなたでも相談しやすいクリニックを目指し診療しておりますので、多汗症の症状でお困りのことがあれば、お気軽に一度ご相談ください。

※ 出典:Fujimoto T, Kawahara K, Yokozeki H. J Dermatol. 2013;40(11):886–890. 参考資料(日本皮膚科学会)